海外の採用事情
2025.08.26

キャリアオーナーシップ構想 ― 学生・企業・大学をつなぐ新しい採用のかたち

目次

なぜ採用のアップデートが必要なのか

日本の新卒採用は、長い間「一括採用」と「大量エントリー」に依存してきました。3月解禁・4月入社という一律のスケジュールに合わせ、学生は数十社から百社を超える企業にエントリーし、企業はその膨大な応募を一律に処理する。表面的には効率的に見えるこの仕組みですが、実際には学生と企業双方に大きな負担を強いており、結果として多くのミスマッチと非効率を生み出しています。

さらに近年では、限られた学生のみが参加できる「選抜コミュニティ」が登場し、一部の優秀層に機会が集中する一方で、その他の学生には十分な情報やチャンスが行き渡らないという新たな格差も生まれています。

つまり現在の新卒採用は、「大量エントリーによる消耗戦」と「選抜コミュニティによる機会の独占」という二極化の構造に陥っています。このままでは、学生一人ひとりの可能性を最大限に活かすことができず、企業も本当にフィットする人材と出会う機会を失い続けるでしょう。だからこそ、今こそ採用のあり方をアップデートし、学生が自らのキャリアを主体的に選び取り、企業や大学と対等につながれる仕組みが必要なのです。

課題 01

一括採用・大量エントリー依存の限界

日本の就活は「とにかく数を出す」ことが前提になっています。学生は数十〜百社にエントリーし、企業は膨大な応募を一律処理。効率的に見えて、実は双方にとって非効率でミスマッチを生みやすい構造です。

  • 学生は「とにかくエントリー数を増やす」ことが目的化し、自己分析や企業研究が浅くなってしまう。
  • 企業は応募数が多すぎるため、学歴やテスト結果で足切りするしかなく、本質的な適性を見極めにくい。
  • その結果、型に合わない優秀な人材を見落とし、両者がすれ違う「すれ違い採用」が常態化している。

課題 02

学歴偏重によるミスマッチと早期離職

日本の採用では依然として「大学名」が重視されがちです。しかし、学生が持つスキルや経験、学びに向き合う姿勢が十分に評価されないため、入社後のミスマッチや早期離職につながっています。

  • スキル・経験・学びの姿勢が十分に評価されにくい。
  • 入社後に「想像と違う」ギャップが生まれ、早期離職につながる。
  • 成果・ポートフォリオに基づく評価基準が未整備。

課題 03

企業・学生・大学のデータ分断

採用に関わるデータは「大学キャリアセンター」「学生本人の自己PR」「企業の採用管理システム」とバラバラに存在しています。そのため学生の全体像が見えず、大学も企業も十分に支援・評価ができない状況です。

  • 大学キャリアセンター/学生の自己PR/企業ATSがそれぞれ独立して存在。
  • ひとりの学生の「学び・活動・成果」が統合的に把握できない。
  • 大学は応募状況を追えず、企業は学修成果を採用評価に活かせない。

課題 04

選抜コミュニティの台頭と機会格差

近年注目されている「選抜コミュニティ」は、限られた学生だけが参加できるクローズド型の就活サービスです。効率的に優秀層とつながれる一方で、参加要件が機会の偏在を生み、市場全体の公平性を損なう課題も抱えています。

  • 優秀層をターゲットにできる反面、参加条件によって機会の偏在が生まれる。
  • 閉じた環境で情報が限られるため、透明性や公平性に課題が残る。
  • 母集団形成の量的な広がりがなく、市場全体をカバーできない。

アップデートの方向性

いまの新卒採用は「大量エントリー」と「選抜コミュニティ」という二極化に偏り、
学生も企業も本当に求める出会いを逃してしまっています。

これからは、学生が自分のスキルや経験で正当に評価され、企業・大学と
対等につながれる仕組みへの転換が不可欠です。

そうすることで、学生はキャリアを主体的に選び、企業はフィットする人材と出会い、
大学は支援の質を高めることができます。

次章では、そのためのビジョンとして「あるべき採用の姿」を提示します。

あるべき採用の姿

現状の課題を乗り越えるために、新卒採用は「学生・企業・大学の三者が対等につながり、互いにメリットを享受できる仕組み」へと進化する必要があります。
グローバルでも主流となりつつあるモデルを踏まえ、日本でも以下の方向性を取り入れることが求められます。

方向性 01

通年・柔軟採用で学びとキャリアを両立

3月解禁・4月入社という一律スケジュールを前提とせず、学生が学びながら自分のペースでキャリア形成を進められる仕組みへ。企業も通年で接点を持ち、多様なタイミングで採用機会を設けることができます。

方向性 02

インターンシップ中心の採用プロセス

短期的な面接や書類だけでなく、インターンを通じた実践経験を重視。学生は企業文化や業務を理解しやすくなり、企業も学生の適性や成長可能性を見極めやすくなります。

方向性 03

キャリアセンターとの公式連携

大学キャリアセンターを「公式チャネル」として活用し、求人配信やイベントをシステム上で一元化。学生は安心して情報を得られ、大学は支援の質を高め、企業はより多様な学生層にアクセスできます。

方向性 04

スキル・経験・ネットワーク重視

学歴に偏らず、スキルやプロジェクト経験、資格取得、さらにはOB/OG・メンターとのつながりなど、多面的な評価を行う仕組みへ。学生は自分の強みを活かしやすくなり、企業はカルチャーフィットする人材と出会えます。

これからの新卒採用は、従来の「一括採用」「大量エントリー」といった仕組みを超え、学生・企業・大学の三者がそれぞれに価値を得られる形へ進化していく必要があります。

通年・柔軟な採用、インターンシップを軸にした選考、キャリアセンターとの公式連携、そして学歴にとらわれないスキルや経験の評価。これらはすべて、学生が自分のキャリアを主体的に選び、企業や大学と対等につながるための土台です。

次章では、私たちが掲げるビジョン「キャリアオーナーシップ構想」とともに、この変化をどう実現していくのかをお伝えします。

当社ビジョンとキャリアオーナーシップ構想

私たちが掲げるビジョンは、「Stand Alone Complex Society」
これは「企業に依存した個人としてではなく、独立した個人として能力を活かせる時代を創造する」という意味です。

新卒採用の仕組みをアップデートすることは、このビジョンを社会に実装する最初の大きな一歩となります。
学生が自分のキャリアを主体的に選び取り、企業や大学と対等に関わる。
それを可能にするのが、私たちの提唱するキャリアオーナーシップ構想です。

ビジョン 01

Stand Alone Complex Societyとは

企業に依存せず、個人が自分の能力と意志でキャリアを築ける社会。
就職・転職・副業・学習など、あらゆる選択を「自分の意思」で決められる時代を指します。

現在とSACS(Stand Alone Complex Society)の違い

現在の社会SACS(Stand Alone Complex Society)
企業が個人のキャリアを規定し、終身雇用や年功序列に依存個人が主体的にキャリアを選び、スキルや経験に基づいて自由に働き方を選択
就職活動は「一括採用」「大量エントリー」が主流通年・柔軟採用とインターン中心の評価、納得感あるキャリア選択
評価基準は学歴や所属組織に偏重評価基準はスキル・成果・ポートフォリオ・学習ログなど、多面的で透明性が高い
大学・企業・学生のデータが分断され、支援が部分的大学・企業・学生がデータでつながり、学習から就職・転職・副業・学び直しまで一貫して支援
「企業に選ばれる」ことがゴール「自分でキャリアを選び、価値を高め続ける」ことがゴール

ビジョン 02

キャリアオーナーシップの考え方

学生が「企業に選ばれる存在」から、「自らキャリアを選び取る存在」へと変わること。
自分のスキルや経験を武器に、納得できるキャリアを自律的にデザインできる状態を目指します。

キャリアオーナーシップの考え方の比較

従来のキャリア観キャリアオーナーシップ
企業が用意したレールに乗り、組織の中で昇進・昇格していくことが中心自分の意思でキャリアをデザインし、必要に応じて環境や働き方を選び直す
「就職=ゴール」、会社に入ることがキャリアの到達点「就職=スタート」、キャリアは継続的に積み重ねていくもの
評価は年次や所属組織に依存しがち評価はスキル・成果・学習履歴など個人の行動と実績に基づく
転職・副業・学び直しは「例外」的な選択肢転職・副業・学び直しは「当たり前」の選択肢として常に開かれている
キャリア形成を企業や社会に委ねる姿勢キャリアの主体は自分。自ら市場価値を高めていく姿勢

ビジョン 03

採用アップデートの意義

新卒採用をアップデートすることは、学生・企業・大学の三者にとっての「成長基盤」を築くことに直結します。
採用の変革を通じて、社会全体にキャリアオーナーシップの文化を広げていきます。

採用アップデートの意義:学生・企業・大学のビフォー/アフター

対象現在(Before)アップデート後(After)
学生
  • 一括採用・大量エントリーで消耗しがち
  • 学歴や所属で評価されやすい
  • 就職=ゴールで、学びと切断されやすい
  • 通年・インターン中心で納得感ある選択
  • スキル・成果・ポートフォリオで評価
  • 学習・資格・副業と就職がシームレスに接続
企業
  • 応募過多で足切り中心の選考になりがち
  • 短期選考でカルチャーフィットを見極めにくい
  • 大学ごと・媒体ごとに運用が分断
  • プレ・マッチング+インターンで深く理解
  • 行動データ×スキルでマッチング精度向上
  • イベント・スカウト・面談・ATSがデータ連携
大学(キャリアセンター)
  • 求人掲示と相談が中心で効果測定が困難
  • 学生の応募・活動状況が追いにくい
  • 学内イベントが点在し、企業連携が属人的
  • 公式チャネル化で求人・イベントを一元管理
  • 学生プロフィール・参加ログを可視化し伴走支援
  • 大学横断ネットワークで企業アクセスを拡張

キャリアオーナーシップ構想の下での候補者体験と、それを支える仕組み

体験(左)と、それを実現する仕組み(右)をペアで整理。読後に「次の一手」が具体化します。

学生にとっての体験

体験

  • スキルや経験が正当に評価され、インターンから本採用へ接続。
  • LinkedInや大学ネットワークを通じてOB/OG・メンターに出会える。
  • 学習・資格の成果がプロフィールに蓄積され、次の挑戦につながる。

支える仕組み

  • イベント基盤(LSCW):参加ログ・インターン導線を記録。
  • Scoutalia:プロフィール・行動データに基づくマッチング。
  • LinkedIn接続:OB/OG・メンター接続と継続的な実績可視化。
  • 学習・資格同期:Learning/資格の更新をプロフィールへ反映。

企業にとっての体験

体験

  • 大量応募に依存せず、インターンやイベントで学生を深く理解。
  • カルチャーや人的資本を透明に発信し、共感を獲得。
  • イベント前から学生プロフィールにアクセス、LinkedInで事前接触。

支える仕組み

  • プレ・マッチング:参加予定学生DB(連絡先非表示/LinkedIn URL表示)。
  • DirectScheduling:事前・当日の面談予約を自動化。
  • Job Insight:カルチャー・人的資本の可視化コンテンツ。
  • データ連携:イベント→スカウト→面談→ATSへシームレス連結。

大学(キャリアセンター)にとっての体験

体験

  • 学生の活動データを一元管理し、実態に基づく進路支援が可能。
  • 学内だけでなく、他大学・企業との接点を公式チャネルで拡張。

支える仕組み

  • 大学ポータル:プロフィール・参加ログ・相談予約を統合。
  • 学生団体ネットワーク:公式集客チャネルとして活用、貢献可視化。
  • イベント運営一元化:会場・飲食手配を含む運営の標準化。
  • 大学横断ネットワーク:求人・イベントの相互配信で機会拡大。

この体験をどう実装するか

ここで描いた「体験」を現実のプロダクトへ落とし込むために、段階的な実装計画(ロードマップ)を用意しています。
イベント基盤の強化から、大学連携、常時接続、そして社会人キャリアとの統合へ──次章では、実装ロードマップを具体的に示します。

私たちの挑戦 ― 採用基盤のロードマップ

キャリアオーナーシップ構想を実現するために、段階的な実装ステップを計画しています。
フェーズごとに進化する仕組みが、学生・企業・大学にとっての新しい体験を生み出します。

フェーズ1(0〜1年)イベント基盤の強化

  • オンライン・オフライン統合運営(キャリアフェアの一元管理)
  • 参加者データのログ化と分析
  • 会場・飲食手配を含む運営オペレーションの自動化
  • 学生団体ネットワークを活用した公式集客チャネル
  • 事前アクセス機能(プレ・マッチング:学生プロフィールDB公開、LinkedInで事前接触)

フェーズ2(1〜3年)大学キャリアセンターとの接続

  • 求人配信・相談予約・学内イベントをシステム上で一元管理
  • 学生の進路・応募データを大学横断で共有
  • 大学公式チャネルとしての位置づけ強化

フェーズ3(3〜5年)企業との常時接続

  • プロフィールベースのスカウト機能
  • 行動データを活用したマッチングアルゴリズム
  • 応募管理・歩留まり分析を含む高度な採用ダッシュボード

フェーズ4(5年以降)社会人キャリアまで接続

  • 就職 → 転職 → 副業 → 学習のライフサイクルを一気通貫で支援
  • LinkedIn接続で卒業後のキャリアデータを継続的に可視化
  • 企業・大学・個人がデータでつながるキャリア基盤へ

まとめ ― 日本の採用を未来へ

本記事では、現状の課題(大量エントリー/学歴偏重/データ分断/選抜コミュニティの二極化)を整理し、
「通年・インターン中心・キャリアセンター連携・スキル/ネットワーク重視」という あるべき採用の姿 を提示しました。
そして、当社の キャリアオーナーシップ構想 の下で、学生・企業・大学それぞれが得る体験と、それを支える仕組みを描き、
最後に段階的な 実装ロードマップ で道筋を示しました。

目指すのは、企業に依存せず個人が能力を発揮できる社会――Stand Alone Complex Society
イベント基盤の強化から大学連携、常時接続、そして社会人キャリアまでを一気通貫でつなぎ、
候補者が「就職・転職・副業・学習」を循環させながら市場価値を高め続けられる世界を実装していきます。

次のアクション

  • ロードマップ に沿って、フェーズ1(イベント基盤)から順次実装。
  • 大学・学生団体・出展企業との連携パートナーを募集し、共創スキームを整備。
  • 体験・仕組みのKPI(参加→スカウト→面談→内定)を公開し、継続的に改善。

よくある質問(FAQ)

Q. キャリアオーナーシップ構想とは何ですか?

学生が企業に「選ばれる存在」から、自らキャリアを「選び取る存在」へと変わることを目指す考え方です。
スキル・経験・学習を通じて、自分の市場価値を主体的に高めていく仕組みです。

Q. 具体的にはどのように実現するのですか?

イベント基盤の強化、大学キャリアセンターとの連携、スカウトや面談調整のデジタル化などを段階的に進めます。
さらにLinkedIn接続により、卒業後もキャリアデータを継続して可視化します。

Q. 大学や企業はどう関わるのですか?

大学は公式チャネルとして求人・学生データを一元管理、企業は学生と早期から接点を持ちカルチャーフィットを確認できます。
三者がデータでつながることで、より公平で効率的な採用が可能になります。

45分の気軽な相談会を
開催しています

竹村 朋晃

竹村 朋晃

著者プロフィール 竹村 朋晃(Tomoaki Takemura)
株式会社ダイレクトソーシング 代表取締役CEO
▶︎ LinkedInプロフィールを見る
2005年に野村総合研究所に入社。大手損害保険会社のシステム設計・開発に従事し、エンジニアとしてのキャリアをスタート。 2015年、ダイレクトソーシングの可能性に着目し、株式会社ダイレクトソーシングを創業。データドリブンな採用を軸に、候補者データの構造化、スカウト改善、タレントプール構築などを通じて、累計500社以上の採用支援を行う。 2017年よりLinkedIn公式パートナーとして、日本企業へのLinkedIn活用を支援。2025年には「LinkedIn Student Career Week」を主催し、5,000名超の学生と40社超の企業をマッチングさせるなど、イベントプロデュースでも実績多数。 「Stand Alone Complex Society(個が独立し共創する社会)」の実現を掲げ、採用における価値創造を追求している。 趣味はウェイクボードとテニス。お台場在住。技術と営業を横断する“ハイブリッド人材”として、採用の進化に挑み続けている。