海外の採用事情
2024.09.10

EUの採用事情を解説します

EUの採用事情についてご存知ですか?
みなさんこんにちは!株式会社ダイレクトソーシングの小野です。
前々回はアメリカの採用事情について、前回は中国の採用事情について調査した結果をご紹介しました。
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アメリカの採用事情を解説します 中国の採用事情を解説します  
アメリカ、中国、ときて次はどこか。
やはり採用について調べるわけですから、経済の規模が大きい地域がいいのかなと思います。
そこでタイトルにもあるように、今回はEUの採用事情について調べてみました。
 



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1.そもそもEUって?

EUについては小・中学校で習ったかなと思いますが、念のため最初に色々おさらいしておきましょう。
 
「ヨーロッパ、欧州」は大州の1つ、つまり地球をいくつかの領域に分けたときの1つのエリアのことを指します。
対して、EUとはEuropean Union(欧州連合)の略で、マーストリヒト条約により生まれた、複数の国から成る国際機構です。
つまりヨーロッパにあってもEUに加盟していない国も存在します。
2019年現在、EUに加盟している国は以下の28カ国です。
ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国
 
なぜEUが生まれたのか簡単にいうと、冷戦下で強大な国家となっていたアメリカやロシアに肩を並べるため、そしてヨーロッパでは昔から国同士の戦争が多く、これ以上戦争を起こさないためです。
ヨーロッパの国々が団結しひとつになることで、資源、経済、政治、環境、文化、教育など、様々な分野で協力関係を築き、他の大国たちに対抗しようとしたのです。
EUに加盟する国では、EU法に従う必要があり、場合によっては各国の国内法よりも優先されます。
そのEU法では「4つの自由」が認められています。
 

  • 資本
  • サービス

 
の移動の自由です。
EU域内であれば、人・物・資本・サービスは国境を気にせず、国内を移動するのと同様の自由を保障しているのです。
具体的にいうと、EU加盟国の国民はEU域内であればどこに住んでもどこで働いても自由で、社会保障も受けられ、EUの加盟国同士の貿易であれば関税が課されず、加盟国間の貨幣の持ち出しや送金も自由、ある加盟国で医師免許を取得後に他の加盟国で医療行為を行っても自由、ということです。
ちなみに国境検査なしに国境を越えることが許可されているシェンゲン協定がありますが、EU加盟国すべてが協定に加盟しているわけではありません。
イギリスやアイルランドはEUに加盟していますが、シェンゲン協定には非加盟です。
つまり人や物の行き来の自由は保障されているものの、国境でも検査はありますよ、ということです(しかしEU以外の国からの入国に比べれば検査は簡易的です)。
 
ここまで説明すれば、今回、“ヨーロッパ”の採用事情ではなく、“EU”の採用事情とした理由が何となくお分かりになるのではないでしょうか。
イギリスがEUを離脱する、しないで揉めているのも、こういった背景が絡んできています。
 
それではEUの基本知識を押さえたところで、EUの採用事情について話していきたいと思います。
 

2.EUでは採用時に何をみている?

EUでは、企業は採用時に候補者の何を見ているのでしょうか?
EUであるからこそ見ているものもあれば、アメリカや中国の採用にも通ずるものもあります。
EUでは以下の項目が採用時にみられているようです。
 

2.1.EU加盟国の国民か

まずはEU加盟国の国民かどうかです。
これは前述した4つの自由の前提となる条件ですので、もちろん見られます。
EU加盟国出身か、それ以外の国出身かで採用の手続きが異なるわけですから当然です。
「人種や国籍で差別してはいけない」という考え方もあると思いますが、あくまでも制度を正しく運用していくための確認ですので、どこの国出身であるかはみられます。
 

2.2.話せる言語

次は言語です。
日本でもある程度日本語や英語を話せる人材を採用する傾向があると思います。
これは業務を円滑に進めるためにです。
ではEUの企業に採用されるには何語を話せればいいのでしょうか。
 
答えは「国によって違う」です。
英語が世界共通語であることから、英語が話せれば大体の国で仕事ができるのでは、と思う方も多いでしょう。
しかしEUではそうとは限りません。
もちろんイギリスやアイルランドでは英語が話せればいいでしょう。
一方フランスやドイツなど、英語以外の言語を公用語にしている国では、その公用語を話せるかどうかが重要です。
業務上必要な水準で話せることが求められます
ちなみにフランスについては、「フランスに旅行にいって、英語で現地の人に話しかけたら無視された、通じなかった」などの話を耳にすることもあります。
英語さえできればいい、というわけではないのです。
 
さらにその国の公用語だけ話せればいいとは限りません。
EU加盟国の国民はやはり人の行き来が自由であるため、他国の国民との交流も多く、二ヶ国語以上を話せる人も少なくありません
業務が遂行できるレベル働く国での言語を扱うことができ、かつ複数の言語でそれが可能であることが、より待遇の良い仕事に就くには求められます。
 

2.3.実務経験

これはアメリカや中国と同様ですね。
やはりEUも、日本のように実務経験のない大卒者を採用して育てる、という考え方ではありません。
採用される側は、就職のための実務経験を得るため、大学生のうちからインターンを行います。
大学を卒業後にインターンを経験する人もいます。
しかし問題は、長期でかつ薄給・無給であるインターンが多いことです。
一部の優秀な学生は手厚い待遇でインターンのときから囲い込まれますが、一般の大学生はそうはいきません。
実務経験のためと思って働いてみたものの、その経験だけでは十分な経験としてみなされずに定職に就けなかったり、薄給なのに担当する業務内容が正社員のそれとさほど変わらなかったりという問題があるのです。
そういった背景からフランスではインターン生によるデモが起きたこともあります。
EUでも就職ための競争がなかなかに激しいことが伺えます。
ただでさえ失業率アップ、移民の受け入れで、良い条件の仕事につけない人が増えています。
優秀で企業に求められやすい層と、それ以外で就職が厳しい層の二極化がより一層強まりそうです。
 

3.EUの採用活動の特徴

EUでは採用時に何をみられているのかについてご紹介しました。
それでは実際、EUでの採用活動にはどのような特徴があるのでしょうか。
 

3.1.学生のうちから優秀層を青田買いする

先ほどフランスでインターン生によるデモが起こったと述べましたが、このデモを行ったインターン生は一般的な大学の学生や卒業生です。
フランスにはグランゼコールという、高等職業訓練学校があります。
その中でもとくに優秀層が集まる上位校の学生は、早いうちから企業がインターンとして採用し、そのまま社員として登用してしまうのです。
その会社でのインターンをしっかり行うため、他の企業でインターンをする暇がなく、学生側としても自ずとその企業での就職という道を選ばざるを得ないとなるわけです。
そのかわり学生は大学の学費や実習手当てを企業に支払ってもらえるという、win-winな関係です。
既卒の人材の中から優秀な人材を雇おうと思っても、企業の採用活動としては遅い行動なのです。
 

3.2.国境は関係なく、EU内全域で人材を探せる

 
国境に関係なく人材をEU全域から探してこれます
それだけより優秀な人材を獲得できるチャンスに恵まれているといえます。
しかし人の行き来が自由なら、自ずと給料の良い国に人が集まります。
より経済状況の良い国へ、より優秀な人材が移動してしまうのであれば、企業単独の経済状況だけでなく、国単位での経済状況も採用活動に影響を与えます。
 

3.3.求人を出していなくても応募が来ることも

フランスの失業率の高さについてはニュースでもとりあげられているのでご存知の方も多いでしょう。
フランスでは大学卒業後、インターンを経験していたとしても就職先が決まらないことも珍しくなく、求人が掲載されればすぐにたくさんの応募が集まります。
そのため、ポストに空きが出たら声を掛けてもらおうと、応募が出ていない企業でも履歴書を送っておく人もいます。
また、イタリアでは多くの人が家族や友人、知人のネットワークを通じて職を見つけます
「採用します!これこれこういう職種で、何人」という求人を外に発信しなくても、応募前から応募があったり、人のツテで採用が決まったりするのです。
 

4.LinkedIn(リンクトイン)、EUでは?

アメリカや中国でも積極的に活用されているLinkedIn(リンクトイン)。
EUではどうなのでしょうか?
 
EU諸国でもLinkedIn(リンクトイン)が採用活動に利用されています。
ユーザー数は、英国が2,500万、フランスが1,700万、イタリアが1,200万、スペインが1,100万、オランダが700万、スウェーデンが300万、ベルギーが300万、デンマークが200万です。
その他のEU加盟国にもユーザーがいるので、EU全体で8,000万超のユーザーがいることになります。
ユーザー数が最も多いアメリカが1億5,400万、次に多いインドが5,300万、その次に多い中国が4,400万ですので、国ごとでみればそれよりも少ないものの、EUとして1つにまとめればインドや中国を抜いて、アメリカに次いで2番目の規模を持つことが分かります。
 
またEU含むヨーロッパの国々ではLinkedIn(リンクトイン)以外のビジネスSNSを使っている人も多いです。
ドイツ発祥のビジネスSNS「XING」も就職・転職のツールとして利用されています。
ドイツではLinkedIn(リンクトイン)よりもXINGが浸透していると聞きます。
同じくフランスでも独自のSNS「viadeo」があり、プロフェッショナルのためのSNSとして、就活・転職に利用されています。
日本にあるWantedly(ウォンテッドリー)のように、国によって独自の職探し用のSNSがあるのが特徴的です。
EUと1つにまとめても、結局はそれぞれ文化も言語も違う国々の集まりなので、このようにローカライズされていくのは何らおかしくはありません。
 
さらに日本でもお馴染のFacebookも、EUでは就活・転職のためのツールとして利用されているそうです。
EU各国のSNSのユーザーランキングを見ると、多くの国でFacebookが上位を占めていますので、Facebook、LinkedIn(リンクトイン)、XING、viadeoなどのSNSによって仕事を探す・人材を採用するということがEU諸国では一般的であることが推測できますね。
フランスではグランゼコール出身者の繋がりが強かったり、イタリアでツテを伝った求職が多いことを考えると、つながりを元に仕事を探す・人材を探すということがEU諸国では普通であり、それによってLinkedIn(リンクトイン)のようなビジネスSNSの普及に繋がっていると考えられます。
 

5.EUの採用事情を知って、今後の採用に活かそう!

EUの抱えている問題として、ニュースで移民問題がとりあげられることがありますよね。
多様な国家の集合体であるからこそ、多様な人間による社会を構築しているEU。
日本も少子化が進んでいるため、今後は海外から人材を受け入れていく必要があるという意見もあります。
日本にとってもEUが抱えている問題は他人事ではありません。
採用の仕方についても、社会の変化によって他国を参考にする必要が出てくることもあるでしょう。
ぜひEUをはじめ、他国の採用事情を知って、今後の採用に活かしていきましょう。
次もまた他の国・地域の採用についてお届けしたいと思います。

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竹村 朋晃

竹村 朋晃

株式会社ダイレクトソーシング CEO (プロフィールはこちらをクリック) 2005年に野村総合研究所に入社。損害保険システムの構築に従事。2015年11月より株式会社ダイレクトソーシングを立ち上げ。エンジニア経験者中心にデータドリブンリクルーティングを中心としたサービスを展開。